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研究内容

スタッフ:宮崎祐介 准教授

研究キーワード:デジタル・ヒューマン、傷害バイオメカニクス、傷害予防工学、スポーツ工学

1. 研究室の概要

 当研究室は、材料力学、機械力学的手法を基軸に医学・心理学的手法を融合させることにより、 人間の構造・運動・感覚・感性を観察・モデル化する人間モデリング(デジタル・ヒューマン)に関する研究を行っている。 さらに、これを人間−モノ−環境の三要素および人間間の相互作用の評価に応用することにより、 快適で安全で有用な製品・環境・サービス・社会機能デザインに関する研究へと展開している。 現在は、傷害予防工学、スポーツ工学、癒し・感性工学に関する研究に取り組んでいる。

2. 個別研究の概要  

2.1 基盤的研究(デジタル・ヒューマン技術の開発と活用による頭部外傷研究)  
2.1.1 個人差を考慮したデジタル・ヒューマン・モデルの構築と傷害予測手法に関する研究

 各種製品の安全性の評価のためのデジタル・ヒューマン・モデルが開発されているが、これらのモデルは個体差が考慮されていない。 そこで、個体別体形を反映した精密さと限られた身体データから創成できる容易さを兼ね備えた、 全身マルチボディモデルと頭部有限要素モデルからなる個体別全身モデルの創成法に関する研究を行った。 さらに、本モデルを利用することで、交通事故の救急救命システムの高度化・高精度化のための傷害予測研究にも発展した。 本研究により、平均体形に限られていた傷害評価のためのデジタル・ヒューマン・モデルのバリエーションに、多様なモデルを提供できるようになり、 乳幼児から成人までのモデルを構築することで、2.2節の応用研究に展開している。



2.1.2 デジタル・ヒューマン技術を活用した精密実体モデルの構築と頭部傷害メカニズム研究

 脳の傷害メカニズムを解明するには、外部から視認できない頭蓋内脳深部の変形状態を可視化することが鍵である。 従来の有限要素解析では、流体−構造連成問題等の課題があるため、その状態は不明確であった。 そこで、実際の人体頭部形状を忠実に再現した精密な頭部実体モデルを、CAD/CAM技術を利用して構築するとともに、 画像処理技術により脳深部のひずみ分布を可視化し、実人体脳深部のひずみ分布を実験的に捉えることに成功した。



2.2 真に安全なものつくり・社会を目指した多分野連携研究

 人間・環境・ものの要因が時空間マルチスケールで複雑に相互作用することで発生する傷害を予防し、 真に安全なもの・環境・社会システムを構築するためには、医文工、産官学の多岐にわたるステークホルダーと連携し、問題を解決しなければならない。

 私は、乳幼児の傷害予防を目的とした医文工・産官学から構成される多分野連携研究に参画している。 そこで、乳幼児の傷害分析技術を開発し、傷害メカニズムと安全対策法に関する研究を実施してきた。 具体的には(a)人間・環境・もののデジタル・モデリングによる受傷状況再現と傷害評価に関する研究、 (b)大量傷害データから抽出された最重要防護製品の高付加価値化、 (c)成長に伴う行動特性と重症度変化を考慮した傷害危険領域可視化技術、 (d)乳幼児虐待と不慮の事故の判別手法に関する研究である。以下に概要を説明する。



2.2.1 人間・もの・環境のデジタル・モデリングによる受傷状況再現と傷害評価に関する研究

 真に安全な環境・製品を実現するためには、その受傷状況を真に理解することが何よりも重要である。 ところが、その状況の説明は目撃者・被害者の証言に依存しており、不確実である。 したがって、受傷状況を推定し、それを再現する技術が必要となる。 そこで、私は医療機関で収集された個別事例の傷害データに基づき、 実症例の個人と環境をデジタル空間に再現し、傷害プロセスを同定することで傷害発生メカニズムを評価する手法を開発した。
  遊具転落事故における頭蓋骨骨折事例に対する検討では、受傷環境である公園の三次元形状計測データに基づき傷害発生遊具をデジタル空間に再現し、 マルチボディと有限要素モデルで構成されるデジタル・ヒューマン・モデルを用いて受傷プロセスを同定することで、 傷害発生状況を解明するとともに、安全対策としての遊具接地面の頭部防護効果を定量的に評価した。 なお、本研究の結果は、遊具の安全に関する国土交通省のガイドラインおよび業界自主基準の改善に活用された。



2.2.2 大量傷害データから抽出された最重要防護製品の高付加価値化

 多分野連携研究において収集された大量の傷害データを活用すると、 頻度・重症度の観点から傷害予防に寄与する製品を抽出し、 その製品に高付加価値を与える設計法を提案することができる。 収集された事故データを統計分析すると、自転車からの転倒・転落による頭部傷害が、 頻度・重症度の観点から抽出され、それを予防する乳幼児ヘルメットの研究をメーカと共同で実施した。 日本人乳幼児の頭部寸法を収集・分析し、個人差を反映した頭部有限要素モデルとヘルメットモデルを用いて、 乳幼児の頭部発達に対して安全なヘルメットの設計法を明らかにした。 本研究結果に基づき、店頭で適切なヘルメットを選択できるサイズゲージが開発され、 2010年度キッズデザイン賞(最優秀賞:経済産業大臣賞)を受賞した。 また、本研究は、転倒頭部傷害に対して重要な住居内床、角に関する共同研究へとさらなる展開をみせている。



2.2.3 成長に伴う行動特性と重症度変化を考慮した傷害危険領域可視化技術

 乳幼児は成長に伴い、行動を変化させ、また体組織の材料特性も変化するため、 傷害の危険性は日々変化する。また、広大な日常生活空間ではどこが危険なのか設計者・生活者が判断することは難しい。 日常生活空間に潜在する重症頭部外傷の危険領域を同定し、それを可視化するためには、 生活環境内での子どもの存在確率と重症頭部外傷の発生確率を組み合わせて評価する方法が有効である。 そこで、子どもの行動特性計測とシミュレーション・実験による頭部外傷重症度評価より、 多様な日常生活空間に対応可能な頭部外傷の危険領域の可視化手法を開発した。



2.2.4 乳幼児虐待と不慮の事故の判別手法に関する研究

 虐待事件と事故の判別における大きな課題は、その密室性から具体的な状況の判断が困難であり、 病院、児童相談所、警察の経験や勘に基づいて、傷害の発生状況や過程を判断せざるをえなかったことにある。 そこで、児童相談所のような現場データ、救急医療機関や法医学教室などの医療機関中心の傷害データを収集し、 科学的な根拠に基づいた客観的判別手法の開発プロジェクトに参画している。
  また、傷害バイオメカニクス技術を活用して、医療現場において判断が非常に困難な事例である被虐待と事故時の頭部外傷の判別手法を開発している。 これまでに、乳幼児個体の有限要素モデル構築手法の開発、解剖時の生体力学検査手法の検討、 乳児実体頭部形状モデルを統合した新たな乳幼児ダミーの開発、乳幼児ダミーを用いた虐待事故の外力条件のデータベース化、 実症例への応用による手法の検証を行ってきた。 特に、小児科領域において40年にわたり議論が続く乳幼児揺さぶられ症候群のメカニズムに関しては、 頭蓋内脳挙動を可視化できるダミーを構築することで揺さぶりにおける頭蓋内の脳変形挙動を初めて明らかにした。

東京工業大学宮崎研究室

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情報環境学専攻宮崎研究室

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